おうちダイレクトをYAHOO!不動産の中でやっちゃうからだよ。

話題の「おうちダイレクト」。ソニー不動産とヤフーの提携によって実現した「新しい」不動産売買プラットフォームですが、色々と議論になっています。

By: craigles75

 

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当ブログでも関連記事を書きました。

2015年7月9日 ヤフーとソニー不動産の「不動産流通革命プロジェクト」は本当に革命なのか。
2015年11月7日 新しくて古い「おうちダイレクト」のソニー不動産とヤフー

1. 新手の「囲い込み」という言い方は妥当か?

(1)従来の「囲い込み」の問題は売主が機会損失に気づかないこと。

このおうちダイレクトについては、新しい試みに期待する向きもある反面、結局新手の「囲い込み」なのではないか、という意見もあります。

「囲い込み」という言葉は、今まで、売主から媒介依頼を受けた不動産業者が両手仲介を狙うため、客付業者からの問い合わせに対し物件を紹介しないという行為を指してきました。そういう意味では、このおうちダイレクトはこの「囲い込み」にはストレートには当たりません。

もっとも、おうちダイレクトで売り出した物件については、売主の仲介手数料は無料であるものの、媒介業者はソニー不動産に限定されており、他社の入り込む余地はありません。売主との間では、一回目の内見の際にソニー不動産と媒介契約(一般媒介だそうです)を結ぶことになっており、加えて他で売却活動を一切行わないことが求められています。

(2) 売却希望登録を行おうとする者は、以下の条件をすべて満たすことが必要です。
ア 宅地建物の取引を業としていない者であること
イ 売却希望物件の所有者として登記されていること
ウ 売却希望物件にオーナー登録者以外の共有者が存在する場合には、共有者全員の同意を取得していること
エ 売却希望物件に関し、指定仲介会社以外の者と売却希望物件の売却に係る媒介契約を締結していないこと
オ 本サービス以外のサービスにおいて、売却希望物件の売却のための一切の活動を行っていないこと
カ 購入希望者による売却希望物件の見学を受け入れることができること

使い方ガイド【おうちダイレクト】(利用規約) より(下線は筆者)

12. 仲介サービス

(1) マッチングサービスを利用した売却希望登録者および購入希望者は、売却希望物件の売買に際して、仲介サービスを利用しなくてはならないものとします。

(2) 売却希望登録者は、初回の見学(第11項)の際に、指定仲介会社の定める書式による不動産売却に係る媒介契約を締結することに同意するものとし、また、購入希望者は、公開物件に係る売買契約の締結までに、指定仲介会社の定める書式による不動産購入に係る媒介契約を締結することに同意するものとします。

使い方ガイド【おうちダイレクト】(利用規約) より

そういう意味では、他の業者を完全に締め出す形となっているため、「囲い込み」という言葉が使われるのも頷ける面があります。

ただ、従来言われてきた「囲い込み」の最も重要な問題は、客付業者が物件を取り扱えないことそのものではありません。この行為によって、売主が、知らないうちに機会損失をしてしまう可能性があることです。売却依頼を受けた不動産業者が「両手」という自らの利益を売主の利益(早期売却や高値売却等)よりも優位におく可能性があることが問題の焦点だと思います。

(2)おうちダイレクトを「囲い込み」というのは「お前だけうまくやるなよ」という話。

一方で、おうちダイレクトでは、このサービスの内容に同意して利用する売主にとって、その後自らが知りえないうちに利益を毀損されるということは形の上ではありそうにありません。

おうちダイレクトについて批判的に語られる「囲い込み」という言葉は、このプラットフォームを利用して売りの媒介を取った上で他業者は排除してしまう部分に向けられており、そういう意味では業界内で「うまくやりやがって」という話に過ぎないとも言えます。

(もちろん、ソニー不動産は一般媒介を締結してレインズ登録を回避し、ヤフー不動産の利用規約で他の仲介サービス利用を規制するというやり方には他の問題が生じます。形式的に主体は別でも、提携のもとで一体としてサービスを行うソニー不動産とヤフーが協調して(つまり実質的には同一主体として)、レインズ登録の義務のない専任媒介の実質をもった契約をさせることは、業法の趣旨には明確に反する行為だと思います。業法の定める媒介契約に関する規定は、契約自由の原則を縛る強行法規であり、当事者が合意していてもそれに反する契約が許されるわけではありません。)

一仲介会社であるソニー不動産が、自社の利益を追求し、売り客を確保する方法を考えて行動を当然のことです。法的な問題はここではおくとして、売主がサービス内容に同意をし、その同意通りのサービスが受けられる、言い換えればそこに嘘がない、情報の透明性があるというなら、それは何ら批判されるようなものではないように思います。

ちなみに、現時点(2015年12月5日現在)、おうちダイレクトに「個人からの売り出し」として登録されている物件は22件。11月5日のサービス開始から、11月15日までで17件、それ以降本日12月5日までで5件が売り出しされています。まだエリアは限定されており、千代田・中央・港・江東・品川・渋谷の6区の物件です。

勘ぐると、上記売主の全てがネットでおうちダイレクトを知って自らコンタクトしてきた人ばかりではないかも知れません。いや、自らきた人ばかりかも知れませんが(ちなみに、不動産価格推定エンジンがが算出する推定価格を参考にした売り出しとなっているはずですが、ざっと見た感じ、かなり高めの価格のものも多々あるので、売り出し価格は公称どおり売主が決めているのかも知れませんが)。いずれにせよ、この売主ゲットの新手法が奏功するかを判断するにはまだまだ時間が必要なのだろうと思います。

「おまえだけうまくやるなよ!」と言っても、そもそもうまくやれるかどうかはまだわからない、というところかな、と思います。

2. おうちダイレクトはYAHOO!不動産の上に成り立っている。

(1)おうちダイレクトはYAHOO!不動産内のサイト

おうちダイレクトで売り出されている物件は現在上記6区22件ですが、おうちダイレクトのサイトから探せる売り出し中の中古マンションは、1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)の18,760件、売り出し物件がないマンションもデータとしては掲載されており、86,598件が掲載されています(2015年12月5日現在)。

おうちダイレクトからの売り出しでない物件は、YAHOO!不動産に各不動産会社が登録している物件です。おうちダイレクトからこれらの物件を辿っていくと、YAHOO!不動産の通常の物件詳細ページに遷移します。

つまり、おうちダイレクトはYAHOO!不動産から独立したサイトではなく、YAHOO!不動産の中の一つのコーナーであるということです。実際、「おうちダイレクト」という文字の上には常にYAHOO!不動産のロゴが掲げられていますし、URLも https://realestate.yahoo.co.jp/direct と、YAHOO!不動産のディレクトリにぶら下がっています。

逆にYAHOO!不動産に行くと、トップにおうちダイレクトのPR、ページ中ほどのもPRがあります。

要は、おうちダイレクトへの集客は、YAHOO!不動産へのアクセスがあってこそということです。当然といえば当然ですが。

(2)YAHOO!不動産へのアクセスを支えるのは有料顧客から提供された情報

しかし、このYAHOO!不動産へのアクセスは、各不動産業者が掲載料を支払って掲載している物件情報によって支えられています。つまり掲載している不動産業者はYAHOO!不動産にとっては顧客なのです。掲載料は高くはありませんが。

そもそも、有料顧客から集めた情報を自社や特定提携会社の利益のためだけに利用することって許されることなんでしょうか。例えば、ホームズやアットホームやスーモが特定仲介会社と組んで同じサービスを始めても、みんな黙ってるんでしょうかね。私は現在アットホームとホームズを使っていますが、これやられたら切れますね。切れると言っても解約するぐらいしかできないけど。ちなみにYAHOO!不動産は使っていないので、私は怒ってませんよ。

以前記事にした件(不動産流通経営協会(FRK)がヤフーへの不動産情報提供停止、他も追随すれば?)、巷では、「既得権益を守ろうとする旧態依然とした業者たち vs 改革を進めるソニー不動産とヤフー」みたいな反応が多々あったのを見かけましたが、私の考えではFRKの反応は当然のことのように思えました。YAHOO!不動産に有料掲載している不動産業者ならなおさら、自分たちがいいように利用されているという感覚を持ってもおかしくないのではないでしょうか。

まあ、プラットフォームを開放して商品を集める一方、プラットフォーム運営会社も自ら出品するというパターンは多々あるでしょうが、多くは出品者もそれを最初から承知の上で利用しているのが普通だと思いますし。

(3)YAHOOがやるからよくない。

要は、これをYAHOO!不動産でやるから良くない。ソニー不動産がヤフーと協力して立ち上げた独立したサイトでサービス提供するなら何の問題もないし、「おもしろいなあ、どうなるか期待!!」で済むでしょう。でも、YAHOO!不動産でやるからこそ勝機をがあると考えたはず。つまり、各不動産屋が金を払って掲載している情報のパワーを使っちゃえばいいいじゃん、ていう話です。いや、最初からそのつもりで不動産業者に営業かけてたんじゃね?と勘ぐられても仕方ない気すらします。

恐らく、サービス開始にあたってお上と何らかの相談はしているでしょうし、上に挙げたような法的懸念などもお上は承知した上で問題ないとしているのかも知れません。そもそもポータルなんかにモラルを求めるのも間違いなんでしょうしね。でも、有料出稿していておうちダイレクトサイト内にも情報掲載されちゃってる不動産業者たちはこれでいいんでしょうかね。こういうことがどんどんまかり通るなら、他の分野でもポータルはやりたい放題になっちゃうんじゃないでしょうか。

こうやって見てくると、失礼な言い方だとは思いますが、「不動産流通革命プロジェクト」は、消費者利益を追求する業界の「革命」と言えるほどのものでもなく、不動産仲介会社とIT企業が「いい集客方法見つけたぜ!」という話に過ぎないように思えてきます。新しい仕組みを作るアイディアと努力には敬意を表しますが、ミスリードを誘導している面もあり、なおかつ既存の有料顧客を軽視し過ぎではないでしょうか(YAHOO!不動産掲載が無料になれば別でしょうけど)。

また、利用規約では、売主と購入希望者とのやりとりで価格交渉はできないことになっています。このサービスを画期的な「個人間売買」プラットフォームのように言うのはこの点でもミスリードだと言えるでしょう。

10. 質問および回答

(1) マッチングサービスの利用者であってYahoo!IDでログインしている者は、ヤフーが定める方法により、売却希望登録者に対して公開物件に関する質問を行うことができます。ただし、売買価格、売買代金の支払の時期、引渡しの時期等の売買契約の条件に関する事項、質問者および回答者を含む特定個人に関する事項、ならびに社会通念に照らし質問するのが不適切な事項については、質問を行ってはならないものとします。また、宅地建物取引を業とする者は、公開物件に関する質問を行ってはならないものとします。

(2) 売却希望登録者は、売却希望物件に関する質問があった場合、ヤフーが定める方法により、誠実に回答するものとします。ただし、質問の内容が売却希望物件の売買に無関係であるなど不適切な場合、回答することが不可能な場合は、この限りではありません。また、売買価格、売買代金の支払の時期、引渡しの時期等の売買契約の条件に関する事項、質問者および回答者を含む特定個人に関する事項、ならびに社会通念に照らし回答するのが不適切な事項について質問があった場合は、売却希望登録者はこれに回答してはならないものとします。

使い方ガイド【おうちダイレクト】(利用規約) より(下線は筆者)

3. やはりエージェント制の方がいいのかもなあ。

従来の「囲い込み」の問題は、情報の透明性が確保されていないことからくる問題だと思います。そういう意味では、レインズが「取引状況」を売主が確認できるシステムにする件は多少の前進かも知れません(参照 : レインズ、売主が取引状況を直接確認できる機能追加。東日本・中部で平成28年1月4日より。 )。

しかし、こういったことをやっても「両手」狙いの「囲い込み」はなくならないでしょう。いくらでも方法はあります。

そういう意味では、おうちダイレクトが仲介手数料を買主だけから取り(つまり最初から片手)、売主に市場の反応をダイレクトに届けるという仕組みには、良い面もあります。おうちダイレクトからしか客が付かないことをとらえて、「機会損失」を憂うる向きもありますが、売主が自ら認識している機会損失なら問題はありません。

ただ、こういったやり方が成り立ちうるのは、YAHOO!不動産のようなポータルパワーを持っているからこそです。ソニー不動産のように資本力があっても、単体ではこうはいかない。

そう考えてみると、本当の意味で「利益相反」的な状況が生じにくいエージェント制の方が良いのではないかと改めて考えてしまいます。そもそも、ソニー不動産はエージェント制的なものを標榜していたはずですし。

消費者利益を最大限尊重し、しかも流通量(というか取引件数)を増やすという点では、アメリカ式のエージェント制の方が良いのではないかと最近また思い始めましたが、他の件も多々関わるので、それはまた別の機会にでも書いてみたいと思います。

ちなみにこんな記事がありました。現在(1/2)の掲載ですが続きに興味津々です。(2)を読んで私の理解に間違いがあれば訂正していこうと思います。
ヤフーとソニー不動産の「おうちダイレクト」の疑問にすべて答える(1) | storie

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griffin

グリフィンです。不動産業もWordPressも関わるようになってまだわずか。それを差し引いてお読みください。コメントはお気軽にどうぞ。

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