ヤフー(Yahoo!Japan)とソニー不動産は、不動産所有者個人が自ら不動産を売り出すことができる「不動産売買プラットフォーム」のサービスを年内にも始めることを発表しました。称して「不動産流通革命プロジェクト」なのだそうです。 (参照 : Yahoo! 不動産 ソニー不動産 不動産流通革命プロジェクト)
きちゃいましたね。結構でかいのが。
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目次
1. 「不動産売買プラットフォーム」の内容
まだ概略の説明しかなく詳細な内容はわかりません。また、リリース時には微妙に想像と違うものになっている可能性もあります。ですので、今日はあくまでもこの記事を書いている時点での内容だということは了承ください。
わかる情報だけでざっくりとした内容を書くと
・ 不動産オーナーがYahoo!不動産の「不動産売買プラットフォーム」を通じて売り物件を掲載。
・ 掲載は無料。
・ 内見・契約・決裁・引渡しなどのプロセスにはプロ(ソニー不動産)のサポートがある。
・ 合理的な売却の仲介手数料。
といった感じです。
2. 不動産ポータルの不動産売買仲介への参入がとうとう来た。
この知らせに触れた時の感想は、「とうとう来たか」。以前からポータルが仲介に直接かかわるようになったらどうなるんだろう、と考えていたからです。
過去記事(2014年11月6日) : 不動産ポータルサイトが仲介業務を始めたらどうなる?
もちろん、想像とは少し違っていて、 「不動産売買プラットフォーム」では、不動産オーナー自らが「売り出し」をします。今わかる情報からは、この部分は不動産オーナー自身が勝手にするのかな、と思います。で、掲載料は無料。
ただ、各種の報道で「個人間売買」と書かれていることがあるんですが、そこは違うような気がします。上記の Yahoo! 不動産の説明の中に「売却仲介手数料」という項目があって、そこには「合理的な仲介手数料を導入予定」とあります。ということは、個人間売買ではなく、宅建業者つまりソニー不動産が媒介することが予定されているわけですよね。これ、「個人間売買」ではありません。
もっとも、報道機関が「個人間売買」と勝手に言っているだけかも知れません。Yahoo! 不動産の説明では、「個人間売買」とは書かれていませんから。単に、「このプラットフォームを通じて自分の家を自分の好きな価格で売り出すことができるようになります。」と書かれているだけです。宅建業者が媒介するんだから「個人間売買」でないことは当然です。
つまり、今回の「不動産売買プラットフォーム」では、不動産オーナーが勝手に値付けし、Yahoo!不動産に物件掲載して売り出すけれども、実際の契約・決裁等については、(どのタイミングで関わるのかはともかく)ソニー不動産が媒介業者として売主と媒介契約を結んで仲介業務を行い、媒介報酬を受け取る、ということなのでしょう。
そして、ヤフーとソニー不動産は、業務提携とともに資本提携もしています。
ということは、やっぱりその実質は、不動産ポータルが仲介業務に参入する、ということですね。
3. ヤフー不動産へのアクセスは不動産業者の物件掲載で成り立っている。
ヤフー不動産は、2014年1月15日から不動産売買分野に本格参入しました。不動産業者がヤフー不動産に物件掲載する料金は、掲載件数無制限で月額中古2万円、新築1万円です。この掲載し放題の料金は、他の不動産ポータルと比較するとかなり安い。
このヤフー不動産の動きに関しては、恐ろしい(笑)次の計画があってのことではないか、という疑念を感じるところもあって、かつての記事に書きました。
過去記事(2013年10月28日) : YAHOO不動産が売買分野に本格参入。
この記事では、たとえば
不動産ポータル各社にはかなり影響があるのでしょうかね。短期的には競争激化がサービス向上につながれば良し、なのでしょうけど、YAHOOみたいな大きなところが不動産広告に直接力を入れて行く動きに、不安っぽい事を何ら感じない訳でもないです…。
そう言えば、開業準備中にとある不動産ポータルの営業さんに 「おたくがそのうち仲介やるなんてことないよね?」 なんて軽口を叩いた覚えがあります…。失礼な話ですね(笑)。
でも、宅建業免許を持っている企業が、一定のコンセプトの下で業者から物件を集めて(通常無料掲載)不動産サイトを運営し、サイト経由での問合せに対しては客付業者として仲介手数料収入を得るというモデルは、局所的には結構あります。もちろん、一定以上のトラフィックを稼げるサイトを作成・育成すること自体が大変ですから、大したものだと思いますけど(そういうサイトを目指していてもうまく実現できていないものなら無数に転がっている気がします)。
さらに思い出してみると、起業するにあたって貸事務所を探していた2010年末頃、ちょうど始まったばかりのGoogleマップでの賃貸物件検索を結構見ていました。不動産業をやろうなんて微塵も考えていなかった頃で、「こんなのあるんだー、便利」と思ったのを覚えています。が、そのサービスは数ヶ月で終了。しかしこれがもし続いていたら、どんな風になっていただろうなあと思ったりもします(面白そうな、怖いような…)。
なんてことを書いていたりして、ああやっぱりか、と思わなくもないです(さらに、最後の方に書いているマップでの物件検索は、最近、SUUMOと日本マイクロソフトが提携して 「 Bing不動産 」が始まりました)。
さらに、上記の記事では、こんなことも書いています。
ポータルのようないわばインフラとも言えるサービスを提供する企業の動向って、それを利用する側にはかなり影響があります。利用が「依存」になっていると、極端に言えば生殺与奪の権を握られているような…。他に実質的な選択肢があるならいいんですけど。
消費者にとってプラスかマイナスか、という価値抜きにはサービスの変動やら淘汰は語れないのでしょうし、業者<消費者なので、ポータルが消費者の方を向いている限りは正当ってことなのでしょう。
それにそもそも「いわばインフラなんだからもうちょっと考えてよ」なんて言ったってどうこうなる世の中ではないですものね。
アットホームもネクスト(HOME’S)もリクルート(SUUMO)も、またGoogleもYAHOOも、民間企業なのだから自社の利益を追求するのは当然で、いつだって予想もしないようなサービスの変更はあり得ると思っていなきゃいけない。当然のことながら、こういったサービスの変動に翻弄されないように構えておかなきゃな、なんて改めて思った次第です。
結局、こういう動きをしがらみなくやれるのは HOME’S でも アットホームでもなく(SUUMOはちょっとあるかなあと思っていましたが)、やっぱりヤフーだったわけですね。この辺のことについては、過去記事 「不動産ポータルサイトが仲介業務を始めたらどうなる?」でも次のように書きました。
いずれにせよ、こういった不動産ポータルサイトは、利用する出稿不動産会社の利益になるように媒体をブラッシュアップしていくのがいわば約束になっているわけですから、出稿企業と丸々重複する業務を、当の媒体から自社にユーザーを誘導して行うというのは、「ちょ、ちょっと待ってよ」という話になると思います。
ただ、いわば販売チャネルを牛耳ってしまえれば、ある意味やりたい放題の可能性もなくはないわけで、例えば、大手小売りがプライベートブランド商品をガンガン増やして棚をドンドン埋めて価格優位で売りまくる、みたいなことと同じようなことを想像してしまう面はあります。
今、大手不動産ポータルがそれをやっていないのは、単純にそれによって失う収益と得られる収益とのバランスを考えてのことだけかも知れません。状況が変わってしまえば、どうとでもなってしまうのかもしれません。
いずれにせよビジネスなので、そりゃないよ、と言っても始まりませんが。
ポータルとしての集客力を活かして、最初は他の不動産ポータルサイトからの連動掲載なども使いながら物件掲載数を増やし、さらに定額で低額の掲載料でさらに売買物件を集めまくり、その上で満を持して仲介に参入する、そういう絵が最初から描かれていた可能性は否定できません。さすが生き馬の目を抜くIT業界の雄ですね。
4. 消費者視線からみても「革命」ではないが、業界としてはかなりのインパクトはある。
今回の 「不動産売買プラットフォーム」、不動産オーナー自身が自ら売り出しが出来る、という点が新しく、Yahoo! 不動産 の説明でも「自分で売り出す」のところに「NEW」と書いてあります。
ポータルが仲介に乗り出す際に一番のネックとなりそうだったのが、ポータルが「今後うちの媒体で来たお客はうちの仲介部門が客付仲介しますからね」と言っても不動産業者がおさまりそうにないことかなあ、と思っていましたが、これを回避する賢い方法が「自分で売り出す」なんじゃないかなあ、と思ったりもして。
とはいえ、個人間売買をサポートするのではなくて、結局、個人が一旦登録した物件に対してソニー不動産が媒介業者として登場するわけなので、角度を変えて見れば、ヤフーパワーを使って売りの媒介をバンバン取るぜ、という話だと言えなくもありません。不動産オーナーが勝手に入力して売り物件が集まるんだから、こんなに簡単な方法はない、とも言えるかも。
ただし、個人による媒体掲載が先行し、その後プロによる物件調査がされるということになれば、当初の広告とは違う条件が後日判明するというパターンもあるでしょうし、どのタイミングでソニー不動産が登場するのか、という問題はあるでしょう。恐らく、生じうるやっかいな問題をできるだけ回避しようとすれば、ものすごく早い段階でオーナーにはソニー不動産からのアプローチがあることになりそうだし、媒介契約自体も出来るだけ早く締結するということになるかも知れません。
「不動産売買プラットフォーム」は、自分のタイミングで、自分の値付けで、「売り出し」できる。まあ、今でもそれは出来るとは思うのですが、多分にある「不動産屋への抵抗感」みたいなものをうまく突いた、そしてまた時代にあったサービスなのかも知れません。しかし、これによって個人主導の中古住宅取引が活性化するなどとはにわかには思えません。個人間で自由に取引するということではなくて、媒介業者が入るわけですし、法律で規制されている媒介業務は、取引のきっかけが何であれ、規定通りの実質は備えていなければなりません。そう考えれば、別に個人にとってもこのサービスが「革命」とまでは言えないように思えます。
(もちろん、不動産を媒介業者などを通さず完全に個人間取引で行うことなど、お勧めは出来ませんし、自分なら絶対にやりませんから、WEBに数ある個人間売買プラットフォームのようなものが、不動産にもあればいいのにと思っているわけではありませんが。)
このように、現時点の情報で私個人の感想を言えば、別に「革命」でもなんでもないとは思います。ただ一方で、不動産仲介業者の多くが「売り」の媒介をいかに獲得するかに腐心している中、ポータルのパワーを最大限利用してうまい媒介獲得の方法を編み出し実行に移すヤフーとソニー不動産に、日本の片隅でこっそりと敬意を表する次第です。
また、このサービスについては、クリアしなければならない細々とした実務的な課題があってすぐに順風満帆となるかどうかわからない面もありますが、そうはいっても空恐ろしい内容であることは間違いないとも思います。何せ、巨大プラットフォームを担う企業が、不動産業者の仕事の核を本気で奪いに来るわけですから。
大和ハウス・積水ハウス、さらにソニー不動産もAmazonで住宅リフォーム商品販売を始めたなどという話もあり( Amazon.co.jp: リフォームストア: DIY・工具 )、巨大ポータルや巨大通販プラットフォームと大手不動産・住宅関連企業との提携は、ある意味ここから本格化していくのかも知れません。ヤフーとソニーだけにやりたい放題やらせたくはないでしょう?
いずれにせよ、業者としては怖いですね。
私なんぞが語るような内容ではないとは思いますが、零細不動産屋としては、こういう流れが現実にあるということを常に意識しながら、自分にしかできないサービスは何かを必死で考えていかなければならないなあ、と思うのでした。
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グリフィン様
お手数をおかけしました。
こちらの環境の問題でした。
又、宜しくお願い致します。
コメント一つにしておきましたね。
また、よろしくお願いします。
同じサービスを10年前から実践しているので、何が問題なのか、よくわかります。
ソニー不動産のかたにアドバイスしてあげたいです。
パンダ不動産 × SUUMO × Bing でどうでしょう(笑)。
実は、パンダ不動産さんが以前からこのサービスをされているのは存じ上げていました。
でも、10年も前からですか。すごいですね。
本当、色々やられていて頭が下がります。
専属専任媒介契約を締結してからネットに掲載するのであれば、何のインパクトもなく、掲載する人は少ないでしょう。
一方、先に掲載して、買主が見つかってから媒介契約を結ぶのであれば、ソニー不動産以外に依頼するケースが出るでしょう。
ちなみに、パンダ不動産であれば、
売主 1.0%
買主 1.5%
で、重説・契約書作成を受けます。
http://www.panda2103.com/service.html
「サイト上で買主を見つけた場合にはソニー不動産以外と媒介契約を結べない」という規約は、独禁法違反の恐れがあります。
「法的な詰め」ができていないので詳細が未発表なのかもしれません。
なるほど、おっしゃる通りですね。
独禁法の問題は私も気になっていたんですが、利用規約上の拘束はしないで、「事実上」ソニー不動産との媒介契約になるような仕組みを考えているのかなあ、とも思います。ある意味この部分が儲かるかどうかの肝かもしれませんね。中には「媒介は要らない」と純粋に個人売買をしたがる強者もいるかも知れませんが、そういう人はごく一部だと思ってるんだろう、とも思ったり。
このサービスではまだ買主の媒介手数料についても言及されていないようですし(無料の可能性もあるかもしれません)、まだよくわからないところも多いですね。
それにしても、パンダ不動産さんは本当に色々なアイディアを実践されていますね。すごいです。
コメントありがとうございます。