IT重説社会実験 - 利便性もいいけど質の向上が大事じゃないかなあ -

ご存知の方も多いと思いますが、いわゆるIT重説の社会実験に関するガイドラインが国土交通省から発表されました(H.27.5.14)。

参照 : 報道発表資料:ITを活用した重要事項説明に係る社会実験のためのガイドラインについて – 国土交通省

これについてちょっと思うところがあったので殴り書き。

By: C_osett

スポンサーリンク

1. 国土交通省のIT重説社会実験ガイドライン

ナナメ読みしかしてないんですが、内容で主なものは以下。

対象取引賃貸取引・法人間取引
ツールテレビ会議・テレビ電話等
IT重説の効果宅建業法35条の重要事項説明とする
書面交付(35条・37条)必要
参加事業者登録制
IT重説前●重要事項説明書の事前送付 ●IT重説を行うことの同意書作成(相手方及び貸主等) ●個人情報取扱い等についての同意( ここでの個人情報は貸主等・取引士などの情報・ 重説の録画・録音は取引士の同意なく行わない 等)
IT重説中●録音・録画の実施(社会実験検証のため) ●宅地建物取引士証の提示(テレビ会議等での表示) ●説明の相手方の本人確認(テレビ会議等での顔写真付身分証提示で可) ●IT重説完了確認は重要事項説明書への記名押印後の返送等で行う

この他にも、機器・ソフトウエアについての詳細やら、IT重説を利用することで手数料が安くなる等IT重説を理由に経済上の利益をお客に与えたダメですよ、とか、まあ色々書いてあります。

本当は、検討会の議事録なんかもちゃんと読むべきなんでしょうが、現在のところ読んでおりません。この話、知ってはいたもののあんまりしっかりウオッチしていなかったので、ガイドラインを読んで推測できること、という感じで書いています。よって何か誤解があればすみません、奇特な方ご指摘ください。

 

2. IT技術によって「対面」の実質を確保できるかどうかが問題になっている。

そもそも、宅建業法35条の運用解釈として、重説は対面で行わなければならない、となっているのはご承知の通りです。

それで、IT技術の進展により、例えばSkypeなんかのテレビ電話システムなどのIT技術をもってすれば、対面して説明するのと実質的に変わらないように出来るんじゃないか、という話です。

言うまでもなく重要事項説明が必要とされるのは、宅地建物の取引は取引条件や権利関係等が複雑なため、契約を締結するかどうかについて十分な理解を得た上で決定できるようにして購入者等が不測の損害を被らないようにするためということからですが、そのためには、書面を送って読ませるだけとかではなくて、対面して説明しなけりゃ理解はできないでしょ、ということになっているわけです。

だとすれば、対面と同じ実質が確保できるんなら、方法はなんでもいいんじゃないの、ということにはなりますよね。

実際、IT重説の解禁についての議論においては、テレビ会議・電話のシステムで対面の実質が確保できるのかどうか、という点が主要な論点になっているように思います。つまり、対面原則を緩和する、というよりも、「対面」の概念を拡張できるかどうか、が問題になっているのだと思います。

まあ、直接会うという原始的なやり方ではなく、なんとなく技術(特にデジタル)が介在すると問題が発生しそうな不安というのもありますが(例えば、本人確認とか間違いなくできるの?とか)、でもそれはそれでやっぱり技術的にクリアしていけそうなものだし、技術的にクリアすることに限界があるものは原始的な方法でも本当にクリアするのが難しい問題だったりもします(身分証の偽造とか)。

だから、「対面」の実質を確保できるんだったらやればいんじゃね?多少は便利になるだろうし、とは思います。

 

3. 本当に「対面」が重説の質を確保しているのだろうか。

しかし、何となく違和感を感じなくもないんですよね。それは何だろうとちょっと考えてみると、「対面」と呼べるかどうかに焦点が当たっているけれど、重説の質をどう確保するかという問題はあんまり気にしていないように見える、ということのように思います。

もちろん、「対面」かどうかの問題と、重説の質をどう確保するか、という問題は、形式的には別次元の問題だろうと思うんですが、でも本当は濃い関係があるようなあと思います。今のままの重説は何も問題ないことが前提みたいになってて、あとはどうやれば「対面」と言えるのかってことに終始するんじゃ、IT技術を利用するとかいう話としてはレベル低すぎるんじゃないかなあ、なんて思います。

不動産取引のネット解禁推進って、消費者の利便性も重視しているんでしょうが、参入障壁を低くするという観点が最大の部分ですよね。「不動産市場が活性化する」なんて言っていますが、例えばネット専業の不動産仲介業者みたいなものを想定しているのかなあ、と思います。これが可能になれば、それこそ不動産ポータルみたいなものを持っているネット企業がぶわーっと登場して大激変が起こる可能性もあるかも知れませんが、それ自体が消費者にとって別に悪いというわけではない(零細事業者としては困るでしょうけど)。

でも、現状の重説の有り方への問題意識はなくて、むしろ現状で一定数行われている形式的な重説はそのままに、IT使って楽にやろうよ、という話に見えるところもある。 IT重説を解禁すれば消費者のペースで十分な説明を受けることができて消費者保護にもつながるとか言ってますが、これはちょっと弱い気がします。正直後付け感を禁じ得ない。

 

4. 重説の質の向上が消費者保護には重要では。

もし、まじめに重説の質を上げて消費者保護を図ろうとかいう意図が少しでもあるんなら、対面だから理解が進むとか、対面じゃないから理解できないとかの問題じゃなくて、よりわかりやすく実質の伴った重説になるように行うべきだってことに突っ込んで行かないといけないんじゃないかなあ、なんて思います。対面の方が望ましいだろう、ということとは別にして。

実際、契約日に普段の担当者とは違う宅地建物取引士が出てきて、ざざっと重説を読み上げて「大丈夫ですよね」、みたいな感じで終わる重説はたくさんあるはず。

だから、事前の書面提示とか、重説の時期に関する規制とか、(現実には難しい部分が多々あることは承知していますが)もうちょっと突っ込んでいくところがあっても良いんじゃないでしょうか(規制じゃなくてその方が望ましい、みたいな指導はあるわけですが)。あるいはもっと進んでIT技術を活用して消費者の理解度をチェックできるようにするとか。

不動産取引って、他の取引とは違ってやっぱり素人にはものすごい一大事だし、そうであれば他のネット取引とは違って、IT技術を活用して重説の質を上げようよ、という施策の検討があったっていんじゃないでしょうか(このまんまじゃ、かつてただ遠隔で授業が見れるっていう単純なものをe-learningとか呼んでいたのとほとんど変わらない。今は生徒の理解度を上げるためのシステムみたいなのも多少進展している気がするんですが、ITとか言うならこの辺の技術転用とか本気で考えてもいんじゃないでしょうか。ただこの辺のIT技術って実はあまり進んでいない気もしてハードル高すぎるて荒唐無稽すぎるかも知れませんけど)。

正直言って、業者としては面倒臭い面もあるけれど、ただネット解禁して参入障壁下げるという話だけだと、今よりもっと形式的な重説がはびこるんじゃないか、という懸念を感じてしまうのは私の杞憂なのでしょうか。

ちなみに、IT重説はお客が録画するのも簡単だから、「重説の可視化?」が進むようにも思えるけれど、それが前提だと、ポカをしないように書面をただ読み上げるだけの重説がはびこりそうな気がしなくもない(まあ、現状でも重説をひそかに録音する客はいるでしょうけどね)。「取調の可視化」では主体が情報を聞き出したい側である場合という点で決定的に話が違う気はします。
(※ なお、今回のガイドラインでの録画・録音は社会実験実証のためであって、実際のIT重説で録画・録音が義務付けられるとはされていません。それに、ガイドラインでも、取引士に同意をとってはじめてお客が録画・録音できることとなっています)。

テレビ会議・電話システムで重説やって「対面」って言えるのか、という問題でごちゃごちゃやって、「対面と同じだよね」となるのは結構なんですが、重説の質が上がる要素はあんまりないし、質が下がる懸念もあるように思えてくるんですよね。

 

5. ネット解禁と重説の質向上施策はセットで。

賃貸と売買、居住用賃貸と事業用賃貸、各物件を取り巻く権利関係とか法令上の制限とかの状況によって、重説の難易度、消費者にきちんと重説の内容を伝えられるかどうかの難しさは変わってくる。一方で重説の時期や事前の書面交付についても、それぞれ事情は異なり、消費者の利便性の観点からは契約直前(同日)を希望する場合もある。でも、事業者側の都合(契約意思翻意の機会を減らすとか、その他事務処理上の都合等)主導で消費者にとってマイナスな行動をすることもあるわけで、この辺のやり方についてもうちょっと突っ込んで規制してもいいんじゃないか、と思う部分もなくはない(難しいことはわかるんですが)。

難易度が低い重説なら、書面送付して「読んで納得したら署名捺印して返してね」みたいなのでも大丈夫な場合もあるかも知れないし、難易度が高い重説なら「対面して説明する」という形式的行為を確保するだけでは消費者の理解が得られることを担保しているなんて言えない場合もあるでしょう。実際、対面は確保するけども(そうしないと業法違反になるから)、難易度に関わらず、契約直前に重要事項説明書を読み上げて終わり、みたいな説明はたくさんあるわけだし(もちろん、契約自由の原則の中で、契約内容のバリエーションやら、物件ごとの特殊性とか、それこそ無限にパターンはあるわけだから、重説の難易度を分類することは容易ではないでしょうけれど)。

テレビ会議・電話なんかで「対面」の実質を確保できればそれは「対面」と呼ぶことにして、今まで通り重説の難易度に関わらず常に「対面」を求めることにしたって良いとは思うんですが、ただ「対面」を確保したからって、よくわかんないまま契約に突き進む、みたいなことは増えることはあっても減らないんじゃないでしょうか

私自身は、ネット取引自体は推進されるべき、というよりもそうせざるを得ない状況にいずれはなるんだろうと思うし、実際対面が必要なせいで、遠隔地のお客さんとのやり取りに苦労する場合もある(苦労といってもお客さんに来店の負担をかける場合が多いんですが)から、別に反対というわけではない。

しかし、ネット解禁推進派は消費者の利益を錦の御旗にしている面がありそれはわからなくもないんだけど、行われている重説のうち形骸化しているものが一定数あるのに、この問題を放置したまま利便性だけ追求していくのはやっぱり消費者不在、事業者的観点からだけ話を進めてるようにも思わなくもないんですよね。つまり、技術的な部分のハードルは一定あるんだけども、実質的な内容の部分については新たなハードルは設けない、今まで通りでいいんだというような。

そうじゃなくて、ネット解禁していくなら、重説の実質を上げるための施策とセットでやるべきじゃないかなあ、なんて思った次第です。ネット解禁で便利になった分、手間かけて重説の理解をもっと得ようよ、というような。

 

余談ですが、既存事業者とか消費者が、技術・設備的に追いつくかどうかという問題に焦点が当てられがちだし、実際そういう問題は軽く見ることはできないとは思うけれども、だいたい、テレビ会議とかテレビ電話とかって、どれくらい普及しているんですかね。ネットでの本人認証とか(まあ重説完了とか、契約自体までネットで認証しようって話じゃないとは思いますが)も含めて、誰もが当たり前に使う技術ということになれば、議論する余地もなく、あとは運用の仕方とかについての細かい部分だけ整えれば大丈夫な話のようにも思いますが。

それよりも、本当に消費者利益を考えるなら、利便性の問題を議論していくうちに、重説の実質をどう上げるのか、という部分に焦点が当たりそうなもんですが、そういう雰囲気は感じないですよね。まあ、何度も言いますが、形式的には別レベルの話かも知れないですけど。

 

6. 別の話ですが…。

もやっとしている感じを整理するために書いていたんですが、いまひとつうまく整理できませんでした。すみません。

しかし、別の話ですが、不動産取引のネット解禁の話、もしそうなったら対応すれば良い、なんて考えてたら中小企業ではまったく追いつかないということもありそうな…。

別にテレビ電話・会議システムを入れるのがハードルってわけではありません。この話、実際にはネットの中で大きなプラットフォームを握っている企業が直接仲介に参入できるように、という動きなんでしょうね。簡単ではないでしょうけど、一つ二つハードルを越えたら、雪崩のように業界が変わっていくかも知れません。想像できるような、できないような…。

 

まとまりもなく、荒唐無稽なところも多いですが、お許しください。今日は力つきました。

関連記事とスポンサーリンク

スポンサーリンク


関連しているかもしれない記事

griffin

グリフィンです。不動産業もWordPressも関わるようになってまだわずか。それを差し引いてお読みください。コメントはお気軽にどうぞ。

2 thoughts to “IT重説社会実験 - 利便性もいいけど質の向上が大事じゃないかなあ -”

  1. グリフィン様

     いつも新鮮な情報ありがとうございます。

     中小企業同士の情報交換が主流のためにどうしても情報不足で

     いつも、『え~』ということが多くて情けないです。

     以前、ソニーが不動産部門の社内カンパニーを作るという話で

     なにができるのかと思っていましたがネット契約なんかも

     見据えているのでしょうね。

     こちらはお金が又かかるという心配ばかりです。

     グリフィン様いつもありがとうございます。

     

    1. キャイーンさん、こんにちは。

      IT重説の件はとりあえずばそんなに気にする必要もないとは思います。ですが、本当は「6. 別の話ですが」に書いたあたりのことが一番気になったのですけどね。まあ、今後業界には色々なことが起こるでしょうが、なかなか中小零細にとって良い話はそうそうなさそうではあります。

      ソニー不動産は興味深いやり方を打ち出しています。参考にはなると思います。これについて言いたいことは色々あると言えばあるんですが、長くなると思うのでまた別の機会に。

      いつもありがとうございます。

キャイーン へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

スパム防止のため下の式の空欄に答えの数字を入力してください。 *